fc2ブログ

ブロガるbunny

夕立ち。
あーくそ!というのは親父の口癖。


雨が降った。ちょうど、バスを降りた時。
熱されたアスファルトで雨水が蒸発し、
ひとつの、なつのにおいを作り出していた。

夕立になるな。

バスの中で窓に走る斜めの水滴を見て予想してはいたが
家までは本降りにならない気がしていた。
なんとなく、そう思っていた。

反対車線の乗り場を、ビニール袋を頭からかぶったばあちゃんが歩いていた。
ばあちゃん、気をつけて。早く帰らなきゃビショビショになるよ。
っていうか頭だけビニール袋で覆ったところで、仕方ないよ。
風で飛ばされるビニール袋を、足を止めてかぶりなおすくらいなら
にもつを保護して早く帰ったほうがいいよ。
ばあちゃんはビニール袋の取っ手を口にくわえてスッポリ被ったまま、歩いていった。
(よいこはマネしないように)

ばあちゃんといえば、さっき買ったタコヤキ屋のばあちゃんが凄く感じが良い人だった。
すいませーん
「はぁーい」
タコヤキ7個入りひとつ
「まいどー ソースかショウユ、どっち?」
ショウユで
「はいよー マヨネーズかけてもいい?」
かけてくださーい
「カツオとアオノリも?」
おねがいしまーす
「はいー 200円おつりね」
ありがとー
「おおきにー」
ばあちゃんの全ての言葉には、笑顔という接頭語が付いていた。
相手の目を見る、完璧なスマイルだった。

バスに乗る前に買ったそのタコヤキはまだ右手にある。
ビニール袋の水滴が増してきた。中身はまだ温かそう。早く食べたいな。

ビニール被りばあちゃんを見遣って角を曲がると
夏の夕立らしく、急に雨の粒がおおきくなった。
ばたばたと体をうつ雨。
どこにも隠れるところがなく、しかしなんとなく道の端を足早に歩く。
急に量が多くなった。
反射的に、空き地の下の掘り込みガレージに潜ってしまった。

ゆるい鉄格子の門が入り口を塞いでいたが、雨宿りには充分な隙間があった。
幸い入り口と反対側から風が吹いていた。

ぼう、っと、流れる水を眺めていた。
先ほどまで熱を持っていたアスファルトはすっかり濡らされ
おそらくその上を走る水も もうぬるくはないだろう。
跳ねる飛沫が足元を白くする。

時々、風が下から 霧になった雨水を吹き上げた。


いつまで待てばいいのだろうか。
通り雨なのか。夜まで降りつづけるかもしれない。
ヤマが通り過ぎるのを待って、いつまでも来なかったらどうしよう。
まだ雨は更に激しくなるかもしれない。今走って帰るのが最善かも。
家はすぐそこ。50メートルもない。
けど・・・

ふと濡れた腕を見る。何故か黒い粒がついている。
あれ、私転んだっけ?

視界に ぼたぼたっ と水が落ちた。
上の空き地がすっかり濡れ、淵から雨水がこぼれ出していた。
驚いて後ずさりする。錆びた鉄格子に背中が触れた。
せきをきったように、そして幕をおろすように、泥混じりの水がこぼれてきた。
走った。


走っている間にも雨はどうどうと降って、
家に着く頃にはびしょぬれだった。
こめかみを伝う雨水が、しばらく・・・暫く流していない汗に似ていた。
あの夏の汗に似ていた。
そうだ、そっくりだ。


高3の夏。
うちの学校は馬鹿なことに
真夏に体育館の外装の塗装工事をし始めた。
シートで覆われた体育館は蒸し風呂状態だった。
サウナのような高温だったが、嫌いではなかった。
体がほぐされて、ゆるく伸びる感覚が好きだった。
暑すぎて息がしにくいのと、跳ぶ度にまとわりつく重い空気は
もちろん嫌だったけれど。

あの夏の、汗にそっくりだった。


あぁ・・・私。今、何をしているんだろう。
泥を浴びねば走り出せないのか・・・

いや・・・考えすぎかな。

ドアの前でそんなことを考えていたら、リュックの中で火の鳥がこそり、と音をたてたので
妄想をやめて 家に入った。
スポンサーサイト



Comment
投稿欄
URL:
Comment:
Pass:
 
Trackback
トラックバックURL
Designed by aykm.